この記事の結論
- 夜職では店から退職金が出ないことが多いですが、一定の個人事業主は、小規模企業共済を使って自分で退職金に近い資金を作れます
- 掛金は月1,000円から70,000円まで500円単位で選べて、その年に支払った全額が所得控除の対象になります
- 入れるかどうかを決めるのは、明細の名前ではなく、雇用関係と事業の実態です。「報酬」と書いてあるだけでは決まりません
- 昼職などで常時雇用され、給与を受け取っている人は、副業で事業所得があっても原則として加入できません
- 貯金とは違います。20年未満の任意解約は元本割れし、加入期間によっては受取額がゼロになる場合もあります。「当分使わないお金」だけを入れる制度です
1. 夜職には店からの退職金が出ないことが多い
昼の会社でも、退職金が必ず出るわけではありません。
退職金制度を設けることは、すべての会社に義務付けられているわけではなく、制度を設けるかどうかは勤務先によって異なります。夜職では、給与型・報酬型のどちらであっても、辞める日に店からまとまった退職金が支給されるケースは多くありません。
だからといって、夜職で働いている人は、老後や廃業後の資金をまったく準備できないわけではありません。
1-1. 店から出ないなら、自分で作る
一定の条件を満たす個人事業主には、小規模企業共済という制度があります。
小規模企業共済は、小規模な事業の経営者や個人事業主が、廃業・退職後の生活資金などを積み立てるための制度です。運営しているのは、独立行政法人中小企業基盤整備機構、通称「中小機構」です。
よく「個人事業主のための退職金制度」と説明されます。
この記事でいう「退職金を自作する」とは、店から退職金をもらうのではなく、自分で掛金を払い、廃業や引退後に受け取れる資金を制度の中で準備するという意味です。
なお、店を辞めるときの未払い報酬、給料、売掛、控除、罰金などの精算については、別の記事で整理しています。

2. 小規模企業共済の仕組み
2-1. 掛金は月1,000円から、支払った全額が所得控除
掛金は、月1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で設定できます。
加入後に増額・減額することもできるため、最初は少額で始め、収入や生活費に合わせて調整できます。
そして、この制度の大きな特徴が、その年に支払った掛金の全額を所得控除にできることです。
確定申告では「小規模企業共済等掛金控除」として、所得から差し引きます。
ここで注意してほしいのは、掛金は「経費」ではないという点です。
仕事に必要な支出として売上から引くのではなく、所得を計算した後に、所得控除として差し引きます。
所得税・住民税の課税対象を減らすという点では経費と似ていますが、経費と所得控除は制度上の扱いも、申告書に書く場所も別です。

2-2. 「積み立てながら税金が下がる」の意味
普通預金に10万円を移しても、それだけで所得税や住民税が下がることはありません。
一方、小規模企業共済で年間10万円を支払った場合、その10万円が所得控除の対象になります。
ただし、10万円払えば税金が10万円戻るわけではありません。
実際に減る税額は、その人の所得、所得税率、住民税、ほかの控除などによって変わります。また、もともと課税される所得がほとんどない場合は、その年の節税効果も小さくなります。
「掛金が全額控除になる」と「掛金と同額の税金が戻る」は、別の話です。
中小機構には加入シミュレーションが用意されているため、自分の所得と掛金額を入力して確認してください。
2-3. 掛金をもとに事業資金を借りられる
小規模企業共済には、契約者貸付制度があります。
掛金の納付状況などに応じて、掛金の一定範囲内で事業資金や事業関連資金を借りられる制度です。一般貸付けでは、掛金の7割から9割程度が貸付限度額の基準になります。
ただし、これは積立金を自由に引き出す制度ではありません。
また、生活費や買い物のためのカードローンとも違います。貸付けの種類ごとに使途、金額、利率、返済期間などが決められています。
「急な出費があればいつでも引き出せる」と考えて加入しないでください。利用するときは、中小機構の最新条件を確認する必要があります。
3. 夜職が加入できる条件
ここが、この記事の本体です。
「個人事業主なら入れる」と説明されることが多い制度ですが、夜職では、店から受け取るお金の名目と実際の働き方が一致していない場合があります。
3-1. 「報酬」と書いてあれば自動的に入れるわけではない
店から受け取るお金が給与ではなく、業務委託の報酬であることは、個人事業主として加入できるかを考える一つの手掛かりになります。
しかし、明細に「報酬」と書かれていることや、支払調書が発行されることだけで、加入資格が確定するわけではありません。
中小機構は、個人事業主に当たるかどうかについて、次のような点を総合的に確認しています。
- 事業所得を得て確定申告をしているか
- 店や会社との間に雇用関係がないか
- 固定給に近い報酬ではなく、独立した事業者として報酬を得ているか
- 社会通念上、継続して事業を行う個人事業主と認められるか
- 従業員数など、小規模企業者の要件を満たしているか
中小機構の案内では、雇用契約で働く人は個人事業主ではなく、雇用契約以外で独立して事業を行い、事業所得を得ている人が対象とされています。
したがって、夜職の場合も、
- 報酬明細
- 契約内容
- 確定申告上の所得区分
- 固定給か完全歩合か
- 店から受ける指示や拘束の実態
- ほかに給与を受け取る仕事があるか
などを確認する必要があります。
自分が給与か報酬か分からない場合は、先にこちらの記事を確認してください。

3-2. 給与型は原則として加入できない
店と雇用関係があり、給与として受け取っている人は、個人事業主として小規模企業共済に加入することはできません。
給与明細や源泉徴収票が出ている場合は、給与型である可能性が高くなります。
ただし、書類の名称だけで最終判断するのではなく、契約と働き方の実態も含めて確認してください。
給与所得者の積立制度としては、iDeCoなど別の選択肢があります。

3-3. 昼職と夜職を掛け持ちしている人は特に注意する
「報酬の仕事があれば入れる」と考えている人が多いのですが、この理解は正確ではありません。
中小機構は、法人や個人事業主と常時雇用関係にある給与所得者について、ほかに事業所得があっても、原則として小規模企業共済には加入できないと案内しています。
したがって、たとえば、
- 昼職の正社員+夜職の報酬
- 昼職の契約社員+夜職の個人事業
- 常時雇用されるアルバイト+副業の報酬
といった人は、「夜職側が報酬だから入れる」とは限りません。
一方で、本業が個人事業で、給与のほうが一時的・非常勤のものである場合には、例外的に加入できる例もあります。どのような場合が例外に当たるかの具体的な事例は、中小機構の案内で確認してください。
つまり、見るべきなのは「給与欄に1円でも記載があるか」だけではなく、常時雇用関係があるか、本業が何か、報酬の決まり方はどうかという実態です。
掛け持ちしている人は、自分で断定せず、申込み前に中小機構へ確認してください。
3-4. 従業員数の条件
小規模企業共済には、業種ごとに「常時使用する従業員数」の上限があります。
業種によって5人以下または20人以下と基準が異なりますが、ひとりで仕事をしていて、正社員を雇っていない夜職の個人事業主であれば、通常は従業員数の上限が問題になることはありません。
ただし、従業員数を満たしていることだけで加入できるわけではありません。個人事業主としての実態も含めて審査されます。
3-5. 確定申告書または開業届が必要
個人事業主が申し込む場合、通常は、事業を行っていることを確認する書類として所得税の確定申告書の控えを用意します。
事業を始めたばかりで、まだ確定申告書がない場合は、開業届の控えを使える場合があります。
そのため、「確定申告をしたことがなければ絶対に加入できない」というわけではありません。
ただし、何年も事業を続けているのに申告していない場合、開業したばかりの人と同じ扱いになるとは限りません。先に過去の申告を整理する必要があります。

4. 貯金との違い――ここを飛ばして入ってはいけない
小規模企業共済は、節税しながら将来資金を準備できる制度です。
しかし、普通預金や生活防衛資金の代わりにはなりません。
4-1. 自由に引き出せない
銀行預金なら、必要なときにATMから引き出せます。
小規模企業共済の掛金は、自由に一部だけ取り崩すことができません。お金を受け取るには、廃業、老齢給付、任意解約など、制度上の手続きをする必要があります。
貸付制度もありますが、借入れである以上、返済と利息が発生します。
4-2. 20年未満の任意解約は元本割れする
事業を続けたまま、自分の都合で解約する「任意解約」の場合、掛金納付月数が240か月、つまり20年未満だと、解約手当金は支払った掛金の合計額を下回ります。
また、任意解約時に掛金納付月数が12か月未満の場合、解約手当金は受け取れず、納付した掛金は掛け捨てになります。
さらに、途中で掛金を増額した場合は、増額した部分の納付月数が別に数えられます。
契約全体では20年以上経過していても、増額部分が20年未満なら、任意解約時にその部分が元本割れする可能性があります。
4-3. 廃業なら必ず全額戻るわけでもない
任意解約ではなく、本当に事業を廃業した場合は、任意解約とは異なる共済金の計算になります。
ただし、「廃業なら加入直後でも大丈夫」という意味ではありません。
共済金A・Bは、請求事由が発生した時点で掛金納付月数が6か月未満の場合、受け取れません。準共済金は12か月未満だと受け取れません。
加入してすぐ辞める可能性がある人は、節税効果だけを見て大きな金額を入れないでください。
4-4. 「4つ目の置き場所」として考える
小規模企業共済に入れてよいのは、
- 今月の生活費
- 税金として残すお金
- 病気や引っ越しに備える緊急資金
- 数年以内に使う予定のお金
ではありません。
3口座管理の記事の考え方でいえば、「使う口座」「税金口座」「貯める口座」のさらに奥にある、鍵のかかった4つ目の置き場所です。
生活防衛資金を先に作り、そのうえで当分使わないお金だけを入れるのが基本です。
5. 受け取るときの税金
小規模企業共済は、受け取り方や解約理由、受取時の年齢によって、税金の扱いが変わります。
5-1. 廃業などで共済金を一括受取りする場合
廃業などによって受け取る共済金や準共済金を一括で受け取る場合は、原則として退職所得として扱われます。
退職所得には退職所得控除があり、ほかの所得と分けて税額を計算する仕組みがあります。
これが、小規模企業共済が「個人事業主の退職金」と呼ばれる理由です。
5-2. 分割で受け取る場合
一定の条件を満たして共済金を分割で受け取る場合は、公的年金等の雑所得として扱われます。
ただし、誰でも自由に分割を選べるわけではありません。共済金の種類、年齢、受取額などの条件があります。
5-3. 任意解約は年齢で扱いが変わる
ここは重要です。
事業を続けたまま任意解約した場合、一括受取りだからといって、必ず退職所得になるわけではありません。
- 65歳以上で任意解約した場合:退職所得扱い
- 65歳未満で任意解約した場合:一時所得扱い
となります。
したがって、「入口で全額所得控除、出口では必ず退職所得で有利」と一律に考えることはできません。
受け取る理由、年齢、金額、受取方法によって変わるため、実際に受け取る段階では中小機構と税務署に確認してください。
6. 申込みの実務
6-1. 申込方法
申込みは、次の方法で行えます。
- 中小機構と契約している金融機関
- 商工会・商工会議所などの委託団体
- オンライン加入受付サービス
オンライン申込みでは、本人確認にマイナンバーカードが必要です。
6-2. 必要書類
個人事業主の場合は、原則として次の書類を用意します。
- 所得税の確定申告書の控え
- 事業を始めたばかりで確定申告書がない場合は、開業届の控え
- 本人確認や口座振替に必要な書類
- オンライン申込みの場合はマイナンバーカード
現在は、紙の確定申告書に税務署の収受印がない場合もあるため、e-Taxの受付日時・受付番号、受信通知、納税証明書など、申告書を提出したことが確認できる資料が必要になる場合があります。
6-3. 掛金の支払方法
掛金は、原則として本人名義口座からの口座振替です。
支払方法は、
- 月払い
- 半年払い
- 年払い
から選べます。
所得控除になるのは、加入を申し込んだ金額ではなく、その年中に実際に支払った掛金です。
年末近くに申し込むと、最初の口座振替が翌年になる場合があります。その年の所得控除を受けたい場合は、初回掛金の納付時期にも注意してください。
6-4. 掛金控除証明書
確定申告や年末調整では、中小機構から届く「掛金控除証明書」を使用します。
その年の9月までに掛金の支払いがある人には、原則として11月に発送されます。その年に加入し、10月から12月に掛金の支払いが始まった人には、翌年2月に発送されます。
【一次体験:ここに、実際に届いた掛金控除証明書の名称、発送時期、記載されている年間払込額・払込予定額、確定申告で使用した箇所を書く。ハガキの実物と突合し、個人情報を公開しない加工方法も決める。検証が完了するまで、この段落全体を公開しない。】
確定申告書のどこに入力するかは、申告全体の記事で説明しています。

よくある質問
Q. 夜職でも本当に入れますか? A. 雇用関係がなく、事業所得を得る独立した個人事業主として認められれば、加入できる可能性があります。「報酬」と書いてあるだけでは確定しません。申込み前に中小機構へ確認してください。→3章
Q. 掛金はいくらからですか?途中で変えられますか? A. 月1,000円から70,000円まで500円単位で設定でき、加入後の増額・減額も可能です。→2-1
Q. 昼職と夜職を掛け持ちしていても入れますか? A. 常時雇用される給与所得者は、副業で事業所得があっても原則として加入できません。給与の仕事が一時的・非常勤である場合などは扱いが異なる可能性があるため、中小機構へ確認してください。→3-3
Q. 貯金とどちらを先にするべきですか? A. 生活防衛資金が先です。共済は自由に引き出せず、20年未満の任意解約では元本割れします。→4章
Q. 経費になりますか? A. 経費ではなく、小規模企業共済等掛金控除という所得控除です。その年に支払った掛金の全額が控除対象になります。→2-1
Q. 確定申告をしていなくても入れますか? A. 開業直後で確定申告書がない場合は、開業届を使える場合があります。すでに何年も事業を続けている人は、通常、確定申告書などによる確認が必要です。→3-5
Q. 生活費が足りなくなったら借りられますか? A. 契約者貸付は原則として事業資金・事業関連資金の制度です。生活防衛資金の代わりとして考えないでください。→2-3
Q. 一括で受け取れば必ず退職所得になりますか? A. なりません。廃業等による共済金は原則として退職所得ですが、65歳未満の任意解約は一時所得扱いです。→5章
まとめ
- 店から退職金が出ない夜職でも、一定の個人事業主は小規模企業共済で将来資金を準備できます。→1章
- 掛金は月1,000円から70,000円で、その年に支払った全額が所得控除になります。→2章
- 加入資格は「給与か報酬か」という名称だけではなく、雇用関係、事業所得、報酬形態などの実態で判断されます。→3章
- 常時雇用される給与所得者は、副業の事業所得があっても原則として加入できません。→3-3
- 20年未満の任意解約は元本割れし、加入期間によっては掛金が受け取れない場合があります。→4章
- 受取時の税金は、廃業・任意解約、年齢、一括・分割によって変わります。→5章
- 申込みには確定申告書や開業届などを用意し、年末の申込みでは初回掛金の支払時期にも注意します。→6章

