この記事の結論
- 医療費控除だけを切り出して申告することはできません。還付申告をするなら、20万円以下として省いていた所得も一緒に申告します。見るのは収入ではなく所得です(→1章)
- 医療費控除は住民税にも反映されます。所得税の還付と翌年度の住民税の減額という二つの形で効く場合があります(→1章)
- 保険金や一時金を差し引くのは、その給付の目的になった医療費までです。引ききれない分を他の医療費から引く必要はありません(→2章)
- 家族の医療費を誰の控除に入れるかは自由に選べません。控除できるのは実際に支払った人です(→3章)
- 翌年1月1日から5年間提出できる還付申告は、もともと確定申告義務がなかった人の手続きです(→4章)
この記事は申告するときの手順と注意の記事です。自分の支払いが医療費控除の対象になるかどうかは、夜職の医療費控除|対象になるものとならないもので先に確認してください。
1. 還付申告をすると一緒に申告に載るもの
1-1 医療費控除だけを申告することはできない
順番を間違えると事故になる場所なので、最初に置きます。
一定の給与所得者について、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告をしなくてもよい場合があります。
この点について国税庁は、この規定は確定申告を要しない場合を定めたものであり、確定申告を行う場合に20万円以下の所得を申告しなくてよいという規定ではないと説明しています。
そのため、医療費控除を受けるために還付申告を行う場合は、給与所得だけでなく、申告不要としていた20万円以下の所得も併せて申告します。
たとえば、昼職の給与があり、報酬型の夜職による所得が20万円以下だった人が医療費控除を受けようとすると、その夜職の所得も申告に載ることになります。
ここで見るのは、受け取った売上や報酬の総額ではなく、原則として収入から必要経費を引いた後の所得です。
また、夜職側も給与として受け取っている場合は、20万円基準の判定方法が異なります。「夜職で受け取った金額が20万円以下」というだけで申告不要とは判断できません。
**医療費控除だけを取り出し、他の所得を省いたまま申告する道はありません。**還付される金額と、これまで省いていた所得を申告に載せることで動く税額を、両方見てから申告してください。
昼職と夜職の両方がある人の申告の組み立ては、2か所から収入がある人の確定申告|昼職×夜職・店の掛け持ちに書いています。
1-2 住民税には20万円ルールがない
20万円以下なら所得税の確定申告をしなくてもよい場合があるという扱いは、所得税の話です。
住民税には、同じ20万円以下の申告不要制度はありません。
所得税の確定申告をしない場合でも、夜職による所得があるなら、原則として住民税の申告が必要です。
所得税の確定申告をした場合は、その申告内容が自治体へ送られるため、通常は同じ内容を改めて住民税申告する必要はありません。
この点は『2か所から収入がある人の確定申告|昼職×夜職・店の掛け持ち』で詳しく扱っています。
1-3 医療費控除は住民税にも効く
医療費控除は所得控除なので、所得税だけでなく住民税の計算にも反映されます。
期限内に所得税の確定申告をした場合、所得税は還付または納付額の減少という形で反映され、住民税は通常、翌年度の税額が小さくなる形で反映されます。
手元に戻る形と、後から来る請求が小さくなる形の二つで効く場合があります。
ただし、医療費控除額がそのまま戻ってくるわけではありません。実際に動く税額は、所得税率や住民税が課税されているかどうかによって変わります。
翌年度の住民税が前年の所得をもとに決まる仕組みは、夜職の辞め際の金|辞める前に精算するものと辞めた後に来る請求で扱っています。
2. 計算のときに差し引くお金
2-1 差し引くのは給付の対象になった医療費まで
支払った医療費の合計から、保険金などで補てんされる金額を差し引きます。
代表的なものは、次のとおりです。
- 入院給付金
- 手術給付金
- 高額療養費
- 家族療養費
- 出産育児一時金
- 医療費の補てんを目的として受け取った損害賠償金
ここに、間違えやすい決まりがあります。
差し引くのは、その給付の目的になった医療費の額を限度とします。
引ききれない金額が出ても、別の医療費から差し引く必要はありません。
たとえば、入院で20万円かかり、その入院について30万円の給付金が出た場合、差し引くのは入院費の20万円までです。
余った10万円を、別に支払った歯科治療や通院費から引く必要はありません。
給付金の合計が、その年に払った医療費の合計を上回ったかどうかで判断するのではなく、どの医療費を補てんするための給付だったかを確認します。
なお、出産手当金は、出産のために仕事を休んだ期間の収入を補うものであり、医療費を補てんする給付ではないため差し引きません。
出産育児一時金は出産費用を補てんするものなので差し引きます。
名前が似ていても扱いは逆です。
2-2 給付額がまだ決まっていない場合
確定申告書を提出する時点で、高額療養費や保険金などの金額がまだ確定していないことがあります。
この場合は、受け取る見込みの金額を医療費から差し引いて申告します。
後から確定した金額が見込額と違っていた場合は、次の手続きで訂正します。
- 実際の給付額が見込額より多かった場合は修正申告
- 実際の給付額が見込額より少なかった場合は更正の請求
給付額が決まっていないからといって、差し引かずに申告するのではありません。
保険会社や健康保険へ申請中のものがある場合は、申請書の控えや給付見込額が分かる資料も残しておいてください。
3. 家族分を誰が申告できるか
3-1 誰の医療費を合算できるか
合算できるのは、自己または「生計を一にする」配偶者やその他の親族のために支払った医療費です。
同居していることは必須条件ではありません。
別居していても、生活費・学費・療養費などを継続して負担している場合は、生計を一にしていると判断されることがあります。
反対に、同居していても生活費や財布が完全に分かれており、独立して生活している場合は、生計を一にしているとは限りません。
また、扶養控除の対象になっているかどうかと、医療費控除で合算できるかどうかは別の問題です。
医療費控除で合算できる親族には、扶養控除や配偶者控除のような所得の要件が付いていません。相手に収入があっても、生計を一にしていれば合算の対象になりえます。
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3-2 控除を受けられるのは実際に支払った人
控除を受けられるのは、その医療費を実際に支払った人です。
親の医療費を自分が負担したなら、自分の医療費控除の対象になりえます。自分の医療費を親が負担したなら、親の医療費控除の対象になりえます。
領収書に書かれた患者名や宛名だけで決めるのではなく、誰が実際に費用を負担したのかを確認してください。
親の扶養に入っているからといって、親が自動的に本人の医療費を申告できるわけではありません。親が実際にその医療費を支払っている必要があります。
家族の医療費について「所得が高い人がまとめたほうが得」と説明されることがあります。税率が高い人の所得から控除したほうが減る税額は大きくなりやすく、その意味では正しい説明です。一方で、総所得金額等が200万円未満の人は入口が10万円ではなく総所得金額等の5%になるため、税率が高い人と入口が低い人が家族の中で別になることがあります。
ただし、これは**支払った後に有利な人を選べるという意味ではありません。**すでに支払った医療費について控除を受けられるのは実際に支払った人で、申告時に家族間で付け替えることはできません。比較する意味があるのは、継続的な治療などについて、今後誰が実際に負担するかを決める前です。名義だけを決めるのではなく、決めた人が自分の資金から支払う必要があります。
4. 手続きと記録
4-1 提出するのは明細書で領収書ではない
医療費の領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付します。
領収書そのものを確定申告書へ添付する必要はありません。
ただし、領収書をもとに明細書へ記載した医療費については、明細書の記載内容を確認するため、確定申告期限等から5年間、税務署から領収書の提示または提出を求められることがあります。
そのため、領収書は原則として5年間保存します。
一方で、要件を満たす医療費通知を申告書へ添付した場合や、医療費通知情報のデータをe-Taxで送信した場合は、その通知に記載された医療費について、領収書の保存が不要になることがあります。
ただし、通知に記載された金額を自分で修正した分や、通知に載っていない医療費を追加した分については、領収書を保存してください。
4-2 医療費通知だけでは拾えない支払いがある
健康保険から交付される医療費通知を利用すると、医療費控除の明細書の記載を簡略化できます。
マイナポータル連携を利用し、医療費通知情報を確定申告書等作成コーナーへ自動入力する方法も用意されています。
ただし、医療費通知やマイナポータルの医療費通知情報だけで、その年に支払った医療費をすべて確認できるとは限りません。
次のような支払いは、通知に載らないことがあります。
- 自由診療として全額自費で払った費用
- ドラッグストアで購入した市販薬
- 通院のために支払った電車代やバス代
- 立て替え払いをしたときの療養費(治療用装具を作った場合など)
- はり・きゅう・あんま・マッサージ・整骨院などの施術費用
**通知に載らないことと、医療費控除の対象にならないことは別です。**逆に、通知に載らない支払いがすべて対象になるわけでもありません。対象かどうかの判定は『夜職の医療費控除|対象になるものとならないもの』で確認してください。
また、通知に反映される時期は媒体によって違います。健康保険から郵送される「医療費のお知らせ」は、対象期間が年の途中までのことがあります。マイナポータルの医療費通知情報は、例年、申告年分の1月から12月までが一括で取得できるようになります。年末の受診分が手元の通知に見当たらない場合は、まず通知の対象期間を確認してください。
さらに、公費負担や自治体の助成などにより、通知に記載された窓口負担相当額と、実際に支払った金額が異なる場合があります。
通知に記載された内容と領収書の金額が違う場合は、実際に負担した金額や補てんされた金額を確認して入力します。
医療費通知は便利な入力資料ですが、医療費控除の対象となる支払いをすべて集めた一覧ではありません。
保険証を使わずに受診することが多い人ほど、領収書と診療明細書を自分で残しておくことが重要です。
4-3 遡って申告できる人とできない人
確定申告義務がなかった人が、医療費控除などによって所得税の還付を受けるために行う還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。
たとえば、年末調整済みの給与だけで、本来は確定申告をする必要がなかった人が、後から医療費控除を申告する場合です。
一方で、もともと確定申告義務があった人については、5年間いつ申告してもよいという意味ではありません。
夜職の所得を含めると確定申告が必要だった人は、原則として法定申告期限までに申告する必要があります。
期限を過ぎてから提出する場合は還付申告ではなく期限後申告になることがあり、無申告加算税や延滞税などが生じる可能性があります。
また、青色申告特別控除の55万円と65万円は、法定申告期限までの申告が要件になっています。10万円の控除にはこの要件がありません。この違いは夜職の白色申告と青色申告で扱っています。
過去に医療費がかさんだ年がある場合は、先に次のどちらかを確認してください。
- その年は、もともと確定申告義務がなかったのか
- 本来は確定申告が必要だったのに、まだ申告していないのか
過去の年分をまとめて片付ける場合の順番は、夜職で無申告だった人が今からやることに書いています。
1章のとおり、還付申告をすれば、その年に申告すべき所得も申告に載ります。
還付だけを取り出すことはできません。
4-4 申告までの順番
医療費控除を申告するときは、次の順番で整理します。
- 判定編で対象になる支払いを選ぶ
- 領収書と医療費通知を集める
- 保険金や一時金などの補てん額を確認する
- 実際に支払った人ごとに医療費を分ける
- 医療費控除の明細書を作る
- 医療費控除だけでなく、その年のすべての申告対象所得を入力する
- 確定申告書を提出し、必要な領収書や通知を保存する
確定申告書等作成コーナーを使う場合も、入力を始める前に、医療費・補てん金・所得の資料をそろえておくと途中で止まりにくくなります。
よくある質問
Q. 医療費控除だけを申告することはできますか。 A. できません。還付申告を行う場合は、20万円以下として省いていた所得も併せて申告します。夜職側が給与の場合は20万円基準の判定も異なります(→1章)。
Q. 住民税は関係ありますか。 A. 関係します。医療費控除は住民税の所得控除にも反映されます。住民税に所得税と同じ20万円以下の申告不要制度はありません(→1章)。
Q. 保険金が医療費を上回りました。差額はどうなりますか。 A. 差し引くのは、その給付の対象になった医療費までです。余った分を別の医療費から引く必要はありません(→2章)。
Q. 保険金の金額がまだ決まっていません。 A. 受け取る見込額を差し引いて申告します。後から確定額が違った場合は、修正申告または更正の請求で訂正します(→2章)。
Q. 出産育児一時金と出産手当金は同じ扱いですか。 A. 違います。出産育児一時金は差し引き、出産手当金は差し引きません(→2章)。
Q. 家族の分はまとめられますか。 A. 生計を一にする家族の医療費を、実際に支払った人が申告できます。同居や扶養控除の対象かどうかだけでは決まりません(→3章)。
Q. 所得が高い人がまとめたほうが得ですか。 A. 支払った後に有利な人を選ぶことはできません。控除できるのは実際に支払った人です。税率と入口を比較するなら、今後誰が実際に支払うかを決める前に行います(→3章)。
Q. 領収書は提出しますか。 A. 原則として提出するのは明細書です。領収書から明細書へ記載した分は5年間保存します。医療費通知を添付またはデータ送信した分には例外があります(→4章)。
Q. 医療費通知だけで申告できますか。 A. 通知に載っていない自費診療・市販薬・交通費などがある場合は、それらを別に明細書へ追加します。ただし通知に載らないことと対象になることは別です(→4章)。
Q. 去年の分は間に合いますか。 A. もともと確定申告義務がなかった人の還付申告は、翌年1月1日から5年間提出できます。もともと申告義務があった人は、期限後申告になる可能性があります(→4章)。
まとめ
- 申告に載る所得を先に確認する。医療費控除だけを切り出して申告することはできない(→1章)
- 20万円基準では、収入ではなく所得を確認し、夜職側が給与か報酬かも分ける(→1章)
- 医療費控除が所得税と住民税の両方に反映されることを確認する(→1章)
- 保険金や一時金は、その対象になった医療費からだけ差し引く(→2章)
- 給付額が未確定なら見込額で差し引き、確定後に訂正する(→2章)
- 家族分は自由に付け替えず、実際に支払った人の申告へ入れる(→3章)
- 医療費通知に載らない自費診療・市販薬・交通費も別に集める(→4章)
- 明細書を作り、保存が必要な領収書は5年間残す(→4章)
- 過去年分は、還付申告なのか期限後申告なのかを先に確認する(→4章)
- 対象になるかどうかの判定は『夜職の医療費控除|対象になるものとならないもの』に戻って確認する
<note>
確定申告そのものの全体像は、【全体像】夜職の確定申告にまとめています。
